院長コラム

カルテの余白

第1回「よく聞き見て、よく診て、よく話す」(平成15年11月1日)

ある日の夕方、診療を終えようとしていたころに若い女性が来院した。月経の一週間ほど前から下腹部が痛み、いらいらして仕事が手につかないという。

診察の結果、目に見える異常などはなく「月経前症候群」と診断した。 女性の住所が遠かったので「どうしてうちに?」と尋ねると、 「通勤の沿線で会社帰りに寄れるところを探していた」。受診のために会社を休むのもままならず、自宅の近 くだと帰ったときは診療を終えている。それに以前、大学病院を受診した際に詳しい説明をしてもらえなかったこと もあって、痛んでも一人で我慢していたらしい。

それから30分ほどかけて、月経周期の成り立ちや、この病気について説明し「症状の出方を自分で確かめてごらん」と基礎体温表を渡した。女性は「ようやくわかりました」と帰った。

最近、この女性のような患者が多くなってきた。女性の社会進出はもはや当たり前になったが、社会の側で対応の遅れが目立つことは数多い。 健康管理もその一つだ。性周期に伴い、痛み、ほてり、肩こり、いらいら……様々な症状が出る。個人差も大きい。だが、そうしたことへの理解や配慮がなされていない。女性自身も健康に気を遣う余裕がなくなっている。 私たち医療の側にも問題はある。 検査や薬の処方をしないと収益が上がらない医療体制では、このような患者を十分に診療できない。 ゆっくり説明をし、体のこと、病気のことを理解してもらえれば、自分で対処でき、症状が改善することも少なくないのに。

私は大学病院で不妊治療を専門にしていたが、4年前、新宿副都心の近くで町医者になった。産婦人科医として、地域医療を担う医者として、 考えていること、感じたことを紹介する。

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