院長コラム

カルテの余白

第2回 「たばこの危険性は次世代に及ぶ」(平成15年11月8日)

「風邪薬を飲んだあとで妊娠がわかったのですが、大丈夫でしょうか」。外来でよくこんな質問を受ける。薬の臨床試験ではふつう妊婦や胎児への影響は調べない。だから安全性は確認されていない。こういったことを説明しているとき、ふと、たばこのにおいに気づくことがある。先日も妊婦に尋ねると、「良くないのはわかっているけど、なかなかやめられなくて・・・・。

たばこの危険性は周知のこと、吸う吸わないは自己責任。こんな判決が最近、東京地裁で言い渡された。本当にそうだろうか。確かに喫煙が肺がんをはじめとする多くのがんや、心臓病、呼吸器疾患の危険因子であることは理解されているだろう。しかし、胎児や小児、さらには性機能への影響についてはどこまで考えられているだろうか。

財務省は、たばこ規制枠組み条約が採択されたのを受け、たばこ事業法施行規則の改正作業を進めている。「妊娠中の喫煙は、胎児の発育障害や早産の原因の一つとなります。疫学的な推計によると、たばこを吸う妊婦は、吸わない妊婦に比べ、低出生体重の危険性が約2倍、早産の危険性が約3倍高くなります」という「警告文」も表示の1例として挙げられている。

それだけではない。たばこに含まれるニコチンなどの物質は、卵巣や子宮の異常を招き、不妊の原因になるとも懸念されている。最近、たばこを吸う若い女性が増えているのも気がかりだ。

依存性があることが常識になのに「自己責任」とはびっくりしたが、自己だけでなく次世代に影響を及ぼすことを忘れてはいけない。薬には過敏でもたばこには無頓着。こんな態度はすぐに改め、薬以上に様々な化学物質を含んでいるのがたばこだということを肝に銘じてほしい。

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