院長コラム

カルテの余白

第4回「妊婦のインフルエンザ対策」(平成15年11月22日)

インフルエンザの季節が近づいた。今冬は新型肺炎SARS対策の一つとして国を挙げてインフルエンザワクチン接種を推奨している。でも妊娠していると、どうしても赤ちゃんへの影響が心配になる。「家族に相談します」と、迷う人も少なくない。

現行の予防接種法は個別接種を重視して法改正された。その趣旨からも、受ける人の利益と不利益を考えて個別に対処すべきだとしている……。

えっ? よくわからないって? 妊婦がインフルエンザにかかったらどうなるか考えてみよう。ふつう妊娠中は心拍数や酸素消費量、循環血液量が増加する。胎児の成長に伴って横隔膜の位置が上り、肺容量が低下する。つまり妊婦は心臓や肺にいつも負担がかかっている。免疫反応も妊娠で変化している。こんな状態でインフルエンザにかかると、合併症を招きやすく重症化してしまう可能性が大きい。

世界保健機関や米予防接種諮問委員会は、妊娠14週以降の妊婦に対してワクチン接種を推奨し、とくに高血圧や腎臓病などハイリスクの場合は妊娠時期にかかわらずに接種を受けるべきだとしている。同委員会の報告では、インフルエンザシーズンに、心臓や肺の異常で入院する危険性は、産後の女性に比べ、妊娠14~20週で1・4倍、37週以降で4・7倍に増えるという。

インフルエンザ治療薬が開発されたが、妊婦や胎児への安全性は未確認。ワクチン、過去に催奇形性や流・早産などが報告されたが、因果関係に乏しく、今は否定的な意見が多い。母体に十分な抗体があれば生まれた子どもも数カ月はインフルエンザにかからないとされる。こんな説明をして、私は妊娠14週以降の妊婦にワクチン接種を勧めている。

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