カルテの余白
第9回「SARSで再認識した感染症対策」(平成16年1月3日)
「先生、年末の不摂生で風邪をひいたのですか?」。インフルエンザのシーズンに入り、新型肺炎SARS対策もあって診療時にマスクをし始めたら何人もの患者に聞かれて閉口した。
SARSが世界に広がった今春、日本は幸い流行を免れた。しかしそれは感染症対策が万全だからではない。現在の国や自治体の対策は、「検疫による『水際作戦』」と「発熱などの診断基準を満たす患者や疑いのある人への対応」に重点が置かれている。
しかしひと度SARSが流行すれば「基準を満たさないが、限りなく疑わしい患者」を一般の診療所や病院で診察する可能性は十分予想される。
世界保健機構(WHO)も「すべての医療者は自らが診療する患者の中にSARS症例いる可能性を考慮すべきだ」と勧告している。地域医療の一端を担う者として患者をたらい回しにせず、自らが感染源にならない、という難しい問題に直面している。
一方でSARSは、私たち第一線の医療従事者に感染症対策の原点を思い出させてくれた。香港では多くの医療従事者が感染したが、Sマスクをした人の方が使わなかった人より感染が少なかった。またアルコールや中性洗剤でふくだけで消毒効果があるという。
そんなだれにでもできる簡単なことで恐ろしい感染症の拡大をある程度防ぐことができる。ならば私たちがまず実行し、多くの市民に知ってもらうことがSARSをはじめとした感染症の予防対策の第一歩だろう。
来年のこの時期、どこの医師もマスクを使って診療し、患者も風邪をひいたらマスクかけ、症状がひどい場合は電話をしてから受診する―そんなことが当たり前になっていることを望みたい。