診療案内

排卵障害・不妊症治療について(産婦人科)

当院で主に行っている治療を中心にできるだけ簡単に説明したものです。

不妊症とは・・・

妊娠を希望したカップルのほとんどが2年以内に妊娠します(妊娠率はおよそ70~95%という統計もあります)。このことから今までは2年以上たっても妊娠しない場合を不妊としていましたが、近年、日本産科婦人科学会は晩婚化や妊娠を希望される方の高齢化を踏まえ、1年と定義を変更しています。しかし避妊期間が長かったカップルなど例外もあり、必ずしも絶対的なものではありません。

正常の月経のしくみとサイクル

月経は子宮内膜が剥がれたものです。これは卵巣から出る卵胞ホルモン(エストロジェン)と黄体ホルモン(プロジェステロン)などの作用により起こります。

卵胞期(らんぽうき)

脳内にある下垂体前葉という組織から出る卵胞刺激ホルモン(FSH)により卵巣で卵胞(卵子の入った水風船のようなもの)が成熟していくと、卵巣から卵胞ホルモン(エストロジェン)が出ます。この卵胞ホルモンが子宮内膜に働き内膜を厚くします。

排卵期(はいらんき)

卵胞期に続き下垂体前葉から黄体化ホルモン(LH)が出ます。これは卵胞刺激ホルモン(FSH)により発育した成熟卵胞に働き排卵を起こさせます。

黄体期(おうたいき)

排卵を終了した卵胞は数日のうちに黄体(黄色い組織)に変化し、その中から黄体ホルモン(プロジェステロン)が出されます。卵胞期に厚くなった内膜はこの黄体ホルモンによりさらに厚くなり着床に備えます。そこへ受精卵が着床すれば妊娠が成立します。

もし受精卵が着床しなければ黄体は2週間ほどで小さくなり、卵胞ホルモンも黄体ホルモンも急に少なくなります。そして子宮内膜は剥がれ月経となります。月経の終わり頃には再び卵胞刺激ホルモンが出はじめ次の周期に入っていきます。

妊娠の成り立ち

妊娠は排卵→卵の卵管への取り込み→受精→着床までが正常に行われた結果、成立します。

妊娠の成り立ち

  • 腟内に射精された精液中の精子は子宮頸管内の頸管粘液を泳ぎあがり、子宮内を通って卵管に達します。
  • 排卵された卵子は卵管采から卵管に取り込まれ、卵管の中で精子と出会い受精をします。
  • 受精した卵子(受精卵)は細胞分裂しながら卵管から子宮内に移動します。
  • 受精卵は胚盤胞(はいばんほう)と呼ばれる状態まで発育し、やがて子宮内膜に埋没します。これを着床といいます。

自然妊娠をするためには、精子、腟、子宮、卵管および卵管周囲が正常であり、かつ適正なホルモン状況での排卵が必要です。さらに妊娠可能時期における性交が必要となります。

不妊症の原因疾患

女性の因子

1.排卵に問題を起こす主な因子
心因性の無排卵症:
悩み事やストレスなどにより、脳からのホルモンがうまく出なくなるため排卵が起こりにくくなります。
高プロラクチン血症:
プロラクチンは脳の下垂体から出るホルモンで、授乳中に高くなります。しかし妊娠とは関係なく高くなることがあり、授乳中と同じホルモン状態になり排卵が起きにくくなります。特に最近、一部の抗精神薬や胃薬などによる薬剤性高プロラクチン血症が増加しています。
多嚢胞性卵巣症候群:
卵巣の表面の皮が硬くなり、その皮を破って排卵することが難しくなるものです。卵巣の中では次々と卵子が育っているので、それらの卵子の入った卵胞が卵巣にたまってしまいます。
その他:
糖尿病、甲状腺機能異常など。
2.卵管に問題を起こす主な因子
子宮内膜症:
普通は子宮内の壁の表面にしかないはずの子宮内膜組織が何らかの原因で卵巣や卵管などに存在し、それが癒着の原因になることがあります。
子宮や卵管の炎症:
子宮や卵管の炎症で癒着が起こり卵子や精子、受精卵の通過障害を起こします。特に最近クラミジア感染による卵管閉塞や子宮外妊娠が増加しています。
3.着床に問題を起こす主な因子
黄体機能不全:
黄体はホルモンを分泌し子宮内膜を変化させて受精卵の着床準備、着床、着床維持に重要な役割を担っています。この黄体の機能が低下した場合、着床に影響が出ます。
その他:
子宮内膜炎、子宮筋腫、子宮内膜症、子宮の奇形なども着床の妨げになると言われています。

男性の因子

造精機能障害(精索静脈瘤、停留睾丸、染色体異常など)、精子成熟、保護障害(副睾丸炎、前立腺炎など)、精路障害(輸精管閉塞など)、射精障害(インポテンツ、逆行性射精など)があります。

主な検査項目

不妊症の検査にはたくさんの種類がありますが、ここでは当院で主に行っているもののみ説明します。(原則は異常が見つかるまでは自費診療ですが、健康保険を利用する場合もあります。)

なお、※の検査は2次検査(稀に行う)です。

不妊症の原因診断のための一般検査

時期 検査内容
初診時 基礎体温測定の開始
子宮腟部細胞診
腟分泌物検査(クラミジア検査も含む)
月経期 血中ホルモン値測定
下垂体機能検査※
検査計画
精液検査
卵胞期 卵管疎通性検査
(通水、通気、子宮卵管造影※)
超音波検査(卵胞径、形態異常の確認)
排卵期 子宮頸管粘液検査
性交後検査(フーナーテスト)
超音波検査(卵胞径、子宮内膜厚測定)
血中ホルモン値測定
黄体期 超音波検査(排卵の確認、子宮内膜厚測定)
血中ホルモン値測定
子宮内膜組織診(日付診)
精液検査

女性に対する検査

1.基礎体温の測定
目がさめた直後、寝床から起きる前に婦人体温計を用いて口腔内で体温を測定し基礎体温表に折れ線グラフを作ります。できるだけ毎朝測定し、受診日には基礎体温表を持参するようにしましょう。正確に測定するポイントは5分間以上の実測値を測定するように心がけて下さい。
2.血中ホルモン検査
血中ホルモン値:
性周期に応じて血液中の下垂体や卵巣から分泌されるホルモンの値を調べます。
ホルモン負荷テスト:
下垂体機能検査として下垂体の上位中枢である視床下部性ホルモン剤を注射(負荷)し、下垂体ホルモンの分泌の変化を調べます。主に排卵障害を認める場合に実施します。
ホルモン剤を注射する前と注射後15分、30分、60分後に採血をします。
3.経腟超音波検査
性周期に応じて卵胞の発育、排卵の確認、子宮内膜の変化やその他形態的な異常を調べます。
4.卵管疎通性検査
卵管の通過性を確認する検査です。当院では超音波下に子宮の出口より生理食塩水を流し卵管の通過性や子宮腔内の様子を確認します。また通過障害が疑われるような場合、連携病院のレントゲン検査室で子宮の出口より造影剤を注入しレントゲン撮影をすることもあります。(子宮卵管造影法)
5.子宮頸管粘液検査
排卵日のおよそ前3日間、子宮の出口より透明な粘液が分泌されます。これは精子の子宮内への進入を助けるものであり、この粘液の量や性状によって排卵の有無や排卵日の推定などを行うことができます。
6.性交後テスト
ヒューナーテストと呼ばれ、子宮頸管粘液と精子の相性を調べます。排卵期に前日の晩に性交を行っていただき、翌朝、頸管粘液を採取し調べます。
7.子宮内膜の検査
子宮内膜が受精卵の着床に適切な状態かどうかなどを調べます。
8.その他(健康保険適応外検査)
AMH:
抗ミュラー管ホルモンの略で、発育過程にある卵胞から分泌されるホルモンです。血中AMH値が原始卵胞から発育する前胞状卵胞数を反映すると考えられております。その値は、卵巣内にどれぐらい卵の数が残っているか、つまり卵巣の予備能がどれほどかを反映すると考えられています。
その為、AMHは卵巣予備能(※)の目安となる評価指標で、不妊症治療領域では近年話題になり注目されてきております。(※卵巣予備能とは、卵巣の中に残っている卵子の目安のことです)
AMHの数値が表すのはあくまでも卵子の在庫の目安であって、その卵の質がいいか、順調に育つかは年齢に一番よく相関します。卵子の老化は実年齢に比例するのです。ですから、同じAMHの値であっても、年齢が高くなればなるほど反応は悪くなります。

ASA:抗精子抗体検査 (自己免疫性不妊)
男性の精子は女性の体にとってはある意味異物だといえます。しかし、普通は精子に対して抗体を作ることはなく、受け入れています。しかし、女性の中には男性の精子に対する抗体をもっている方がいます。精子に対する抗体があると、妊娠のために精子が腟内、頚管粘液に入ってきても抗体に攻撃されて動けなくなり、受精のために子宮に入ることできません。すなわち、抗精子抗体とは精子に対する抗体のことで、女性に精子に対する抗体が作られてしまうと不妊の原因になり、精子抗体は男女とも不妊症患者の約3%をしめるといわれています。
抗精子抗体には、抗精子不動化抗体と抗精子凝集抗体があります。当院では、抗精子不動化抗体を測定しています。

男性に対する検査

精液の量や性状、精子の数、運動率、奇形率などを調べます。
検査予定日の朝、ご主人に精液を専用の容器に採ってもらい提出してください。(あらかじめ容器はお渡しします。)結果次第でホルモン検査を行うこともあります。

治療

原因の検索により明らかな異常が認められた場合はその疾患に応じた治療を行います。しかし約30%のカップルは一般的な検査にてこれといった異常が認められません。この場合はさらに原因を調べつつ、およそ次のようなステップで治療を進めていくことにしております。またどこまでの治療を希望されるかはご夫婦間でよく相談の上お決めください。

当医院の治療方針
1 自然周期(諸検査、タイミング指導) 6周期
2 飲み薬による排卵誘発 2周期
3 経過観察 1周期
4 注射薬による排卵誘発(+人工授精) 5周期

1.タイミングの指導

患者さんの約30%の患者さんは数周期(およそ6周期以内)に、排卵日の推定を行うことだけで妊娠をされます。タイミングの指導には、基礎体温表、超音波検査による成熟卵胞の確認、子宮頸管粘液検査などを参考に行います。

2.薬剤による治療

主に排卵障害を伴う患者さんには飲み薬や注射による排卵誘発(卵子を成熟させ排卵させる治療)を行います。また漢方薬や他の薬剤を併用する場合もあります。
注意:排卵誘発剤の投与により、場合によっては多胎妊娠や卵巣が一時的にはれる状態(卵巣過剰刺激症候群)を起こすことがあるため、このような治療の場合予防のため通院が頻回になることがあります

3.人工授精(AIH)

通常の性交渉によらず人工的に夫の精子を子宮内に注入する方法です。
精子の数が少ないなどの男性不妊症の方や、原因不明の不妊症の方などに試みます。
1回の人工授精ですぐに妊娠する人は少なく数回は試みるのが普通です。

4.体外受精・胚移植(IVF-ET)

※当院では行っていませんので、ご希望の医療機関にご紹介します。

排卵直前に成熟した卵子を膣から挿入した針で採取(採卵)し、夫の精子を加えて体外で受精させ、培養した受精卵を子宮に戻す方法です。
妊娠率は1回の治療でおよそ20%程度です。卵管が閉塞している人や、排卵誘発・人工授精などほかの治療を繰り返しても妊娠しない場合などに行います。また症例によっては顕微授精(人工的に1匹の精子を卵子の中に注入する方法)や凍結融解胚移植(凍結しておいた受精卵を融かして子宮に戻す方法)などを行います。

5.男性不妊症に対する治療

薬物療法(漢方薬、ホルモン剤投与)、手術療法などがありますが、重症の場合は積極的に男性不妊症を専門とした泌尿器科受診を勧めています。

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